第三章『交錯』 ( 六 )

プレストはしばらく窓を眺めていたが、突如、中断された。
ガディラが血相を変えて、プレストの両肩を掴んできたからである。

「ちょっ……お、おい?」

先ほどの、余裕を見せていた態度からは考えられないガディラの様子に、プレストは戸惑いを隠せなかった。肩を掴む手は、少し震えているようだった。
するとガディラは、プレストをまっすぐに見て言った。

「大丈夫か?」

その言葉に、プレストは一瞬きょとんとした。先ほどの件で、ここまで心配されるとは思ってもいなかったからだ。

「み、見ればわかるだろ?怪我とかねえし……」
「いや、そうじゃない。先ほどの状況は……たとえ不意打ちだったとしても、打開できたはずだ。何かあったんじゃないのか?」

そこでようやく、プレストは言葉の意味を理解した。
スカイルに追い詰められていた状況に、ガディラは違和感を覚えた。だから、スカイルの言動によって、あるいはプレスト自身の問題によって、そうなったのではないかと思ったのだろう。単なる怪我の心配ではなかったのだ。

「あれは、いつもの金縛りが予想外の時間にきちまっただけで……それ以外は別に」
「……本当にそれだけだな?今は大丈夫か?」
「ああ」
「そうか……」

ガディラはプレストの肩から手を離すと、ほっとした様子で笑みを浮かべた。

「なら良かった」

そんなガディラを見て、プレストはまだ戸惑っていた。心配するのは仲間として当然かもしれないが、それでは何か腑に落ちない。初対面というのが、そう思わせているのだろうか。
すると、複数の足音が聞こえてきた。

「プレスト大丈……うわあ」
「プッくんの部屋、ぐちゃぐちゃ……」

戦いの爪痕を見て、ノルヴァとキリアが思わず口を開いた。
あちこち穴があったり、氷に覆われていたりと、部屋として成り立たない状態だった。それを改めて認識すると、プレストは顔をしかめた。
と、遅れてラージアがやって来た。

「もう、ガディラさんったら!助けに行くんだって言ってくれれば、あたしたちも加勢できたのに〜」
「いやあ、話を中断させるのも悪いかな〜と」

ガディラは笑顔を作って答えた。そして、心の中で別の答えを呟く。

(相手がスカイルだったからな……全員で行ったら、それこそあいつは逃げられない。でも、プレストはそれを望まないだろう。それに――)

ガディラは視線を感じて、そちらに顔を向けた。
プレストだ。先ほどの様子に、疑問か何かを抱いているのだろう。
目が合うと、プレストはすぐに視線を逸らした。そんな彼に、ガディラは苦笑いを浮かべた。

(こりゃ、説明した方がよさそうだな……)

すると、トラストがゆっくりとした足取りでやってきた。

「ほっほ、会議室を抜け出してこちらで戦っていたとは、驚きじゃな」
「いえ、トラスト様はご存知だったのでしょう?そうでなければ、あとは私の存在感が薄いとしか……」

笑い合う二人に、ラージアは少し頬を膨らませて言った。

「お祖父様も気づいていたんですか?」
「まあ、それだけこいつに期待しとったということじゃて」
「ありがとうございます」
「……それにしても――」

トラストはプレストを見た。何が言いたいのかは、その呆れた表情からすぐにわかった。「助けが必要だったとは、まだまだ未熟な奴だ」と。
そこでプレストは、その言葉が出る前に、先ほどの件について説明を始めた。
スカイルについては、あまり詳細に話さなかった。今回の彼の行動は、結局のところわからないことが多すぎる。変に推測などを混ぜてしまいそうなので、言葉少なく説明した。
それを聞き終えたトラストは、首を傾げながら言った。

「今回の金縛りは、今までとは随分異なる、か……気になるのう」
「なんとなく、今回限りだと思いますが……って、皆の前で話して良かったんですか?」
「大丈夫だよ、右目のことはさっき説明したから。金縛りは言ってないけどね」

ラージアの言葉に、プレストは自分が早く退出させられた理由を悟った。
すると、先ほど取り損ねた眼帯を外した。説明しているのなら、後は目で確かめてもらうだけだな、とプレストは皆の方へと顔を向けた。

「まあ、こんな感じで……一応、他の奴には言うなよ」

左目の青とは対照的な、金色に輝く瞳。
それを見た瞬間、皆はなぜかぞっとするものを感じた。裂傷を引き起こしたとされる魔力のせいなのだろうか。ただ、邪悪なものは感じない。ひたすら強大なものに畏怖するといった感じだ。
しばらくしてから、トラストは話を戻す。

「……もしかしたら、いつも以上に魔力を消費していることが、今回の金縛りの原因かもしれんな。とにかく、しっかり休め」

すると、トラストは持っていた鍵をノルヴァとガディラ、そしてプレストに渡した。そこには、部屋の番号が小さく記されていた。

「キリアはいつものように、ラージアの部屋で良いじゃろう?後の三人は、客室で休むといい。明日は昼に出発じゃが、なるべく早く起床するように」

了解、と皆は口を揃えた。ただ、プレストだけが少し遅れていたが。
それに少し怒ったのか、トラストは杖でプレストの頭を小突くと、口を開いた。

「プレスト、部屋の案内をしろ。お前も客室じゃから、ちょうどいいじゃろ」
「……了解」

プレストは仕方ない、といった様子で答えた。


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