第三章『交錯』 ( 五 )

スカイルは至近距離で銃を突きつけている。いつでも魔銃術を放つことができる状態だ。金縛りで状況がはっきりしてしないプレストでも、それだけはわかった。
まさに、ピンチだった。

「確かに、降参せざるを得ない状況だろうが……」
「いや、これは――」

言いかけて、プレストは再び目を見開いた。
いつもの金縛りとは違い、今回は声が出せる。しかも、スカイルは金縛りに気づいていないようだ。腕がちょうど頭の高さで停止しているため、降参しているように見えるらしい。
これは、不幸中の幸いというものか。
プレストは、なんとか心を落ち着かせて口を開く。

「……つかお前、どうやって俺を見つけたんだ?」
「魔力探知器に、お前の魔力を登録しておいたからな」
「……へえ、そりゃ便利だな。それでも、侵入するのは難しいはずだけど」
「いや、手薄だったが」
「手薄……?もしかして警備の奴、怠慢でもしたか?それとも、お前が――」

プレストは会話を続ける。なんとか時間稼ぎをして、金縛りが解けるのを、あるいは誰かが来るのを待つしかない。
しかし、時間稼ぎにはスカイルも気づいているだろう。案の定、しばらくしてスカイルは黙り込んでしまった。
プレストは困った。
おそらく、確実に殺そうと思っているのなら、バリアーでは効かない術を放つだろう。仮に、バリアーで対抗できたとしても、動けない以上、次の攻撃が強力だったら――。
と、ここでプレストはあることに気づいた。

(待てよ……。それ以前に、普通なら俺もう死んでもおかしくねえよな……何ですぐに殺そうとしねえんだ?)

考えてみれば、時間稼ぎの余裕など本来ありはしないのだ。本当に殺そうと思っているのなら、姿を見せることもなく、身を潜めて殺そうとするはずだ。それが一番確実であり、手っ取り早い方法だろう。
しかし、プレストは焦っていて気づかなかったが、今のスカイルには昼間の殺気が感じられない。今すぐには殺さない、ということなのだろうか。
すると、スカイルが口を開いた。

「どうして……」
「ん?」
「お前は、あんなことを言ったんだ?」
「……あんなこと?」

プレストが聞き返すと、スカイルは苛立ちながら言った。

「『人を殺したくない』など……敵に向かって言う台詞ではない。だから、なぜあのようなことを言ったのかと訊いている」

その瞬間、プレストは理解した。

(ああ、これが目的か)

プレストの発言が気に食わないのかはともかく、発言理由について訊きたかったようだ。確かにそういうことでなければ、プレストを生かしている意味はないだろう。それだけの為に、というのが少し納得できないが。
プレストは言った。

「いや、あれは単なる個人的な意見というか、独り言みたいな感じで……ただ、お前が食いついてきたように見えたから、補足も加えて言っただけだ」
「……」

あっさりと説明されて、スカイルは困っているようだった。
ちなみに、少し説得しようとしたのはあるが、それは色々とこじれそうなので、あえて言わないようにした。だが、それ以外は本当だ。
すると、スカイルはやがて銃を持つ手に力を込めた。そして、少しずつ言葉を紡いでいく。

「……そうか。ならば、これで用は……ない」
「!」

プレストは反射的に身構えた。
発言からして、今度は殺すつもりらしい。用事を済ませれば当然そうなるとは予想していたが、かといって確実な対処法がないのだ。
とりあえず、最初の一撃はなんとかして回避しなければ――プレストが、バリアーを張るために集中し始めた。
その時だった。
一本の矢が、スカイル目掛けて直進してきたのだ。

「く……っ!」

すんでのところでスカイルは大きく後退し、それを避ける。矢は、その先にあった窓ガラスを突き破って、さらにその先へと飛んでいった。
スカイルは咄嗟にドアの方を見る。その目に映ったのは、破壊されたドアと――。

「ガディラ!?」

プレストは、驚きの声を上げる。そこに現れたのは、ガディラだった。
彼は、プレストの元に向かいながら、再びスカイルに矢を放つ。体勢を整えるのをやめて、スカイルはその矢を避けた。矢は壁に当たり、轟音を轟かせる。
そして、スカイルはガディラに魔銃術を放った。
プレストの前まで来ていたガディラは、プレストを小脇に抱えると、すぐにその場を離れた。途端、その一帯が氷に覆われていった。
ガディラはプレストを降ろすと、弓を構えた。プレストも、抱えられたことで金縛りから解放されたため、戦闘態勢に入る。
スカイルは銃を構えて殺気を放ちながら、ガディラに言った。

「……なぜ、扉の向こう側から俺の位置がわかった?」
「なに、『気』を使えば簡単なことだ。お前が侵入したこともわかるぐらいだし、当然だぜ?」

得意げな笑みを浮かべ、ガディラは言った。
彼はスカイルが侵入したことに気づき、こっそりと会議室から抜け出した。そして、「気」を頼りにしてプレストの部屋へと向かい、ドアの向こう側にスカイルがいることを確認した上で、矢を放ったのである。

「ところでお前さん、どうやら一人で来たようだけど、ちょっと無謀だな。大体、ここはどこだと思ってんだ?」

ガディラは真剣な表情を浮かべて言った。その様子に少し気圧されながらも、スカイルは答えた。

「……ライザーズ邸だが」
「おいおい、それだけか?お前さんにとっちゃ、敵の本拠地なんだぜ。その意味、わかるよな?」

スカイルは黙って、ただガディラを睨みつけた。
不意打ちにはなるだろうが、敵の本拠地に一人で乗り込むのはあまりに無謀である。場合によっては、味方からも軽率な行動だと言われかねないことだ。
すると、プレストをちらっと見て、ガディラは言った。

「いいか、よく聞け。このまま何もしないで退くなら、こちらも追いはしない。抵抗するなら、それなりの処分をさせてもらう」
「……逃がす、ということか?」
「ちなみに、抵抗してもいいけど、この騒ぎでもっと人が来るだろうから、途中で逃げたくなっても無理だぜ。あと捕まっちまったら、お前の国にもその無謀な行動っぷりが伝わるだろうよ。さ、どうする?」

脅しも交えたその言葉に、しばらく黙っていたスカイルだが、やがて銃を下ろした。睨みつけることを忘れてはいないが。

「今回は……退かせてもらう」
「賢明な判断だ」
「……ふん」

スカイルは、矢に突き破られた窓から飛び出していった。その時、プレストにちらりと視線を向けていった。
プレストもそれを逃さなかったが、彼がどのような表情をしていたのかは、わからなかった。


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