第三章『交錯』 ( 四 )

先に部屋へと戻ったプレストは、とりあえずといった様子で椅子に座った。戦闘で魔力をかなり消費している、という自覚はあるが、不思議と疲れは感じない。
背もたれに体重を乗せる。部屋の中は月明かりのおかげで、ほんの少しだけ明るい。
しばらくしてから、突然ある事がプレストの頭に浮かんだ。

(……ああ、そうか。何か似ているなとは思ってたけど……)

そして、複雑な気持ちが表情として現れる。

(スカイルは、昔の俺に似ているかもな。一つのことしか考えられなかったあの頃に……)

あの頃の自分を思い出してみる。
両親を殺され、「強くなりたい」と願った。
ただ、それだけしか考えられなかった。
廃人のようになっていたプレストにとって、唯一生まれたその想いだけが、彼を突き動かすものだった。だから、ある程度立ち上がるまでは、他の思考や感情を後回しにするしかなかった。
今では、その余裕は出てきている。しかし、まだ「表情」として出すには不十分で、今でも一部の感情を表すことができない。あの事件の傷は、それほど深いということなのだろうか。
と、ここでプレストは自分に関することを中断して、再びスカイルのことを考え始める。

(おそらくあいつの場合、現バーニス国王……ヴィルダリス二世の命令を遂行するのに必死なんだろうな)

スカイルがプレストに殺意を抱いているのは、ヴィルダリス二世の命令があったからだろう。もし、その命令がなければ、何か理由がない限り、彼は銃を向けてこなかったはずだ。
だからその殺意は、王に対する忠誠心を意味するのかもしれない。

(でも、なんか……気になるな)

プレストが殺したくないと言った時、バーニス国の目的について聞いた時、スカイルは動揺していた。唐突な言葉だったとはいえ、あそこまで表情が変わったのだ。それが妙に引っかかった。
――が、ここまで考えて、プレストは思考を止めた。

(……色々考えたところで、すべて勝手な想像だし。こういうのは本人に聞かねえと……って、無理かもしんねえけどな)

すると、プレストは立ち上がり、眼帯を外そうと腕を上げた。とりあえず、就寝前にシャワーを浴びようと思ったからだ。それに、慣れているとはいえ、ずっとつけているのは嫌だった。
しかし――。

(……おいおい)

呆れたプレストは、心の中で呟いた。
体が、動かない。
眼帯を取ろうとした腕は、頭の高さで固まっている。足は棒立ち状態だ。首も動かないため、眼球を動かしてその様子を確かめる。
しかし、これは敵によるものではない。プレストにとっては日常茶飯事だ。
金縛りである。
これは右目の事故からよくあることで、解除するためには、誰かに触れてもらうか、待つしかないのである。
ただ、金縛りになる時間がいつもより早いことには驚いた。就寝前に、しかも立っている時になるのは初めてだった。
といっても、金縛りであることに変わりはない。プレストは冷静に考えようとして――予想外のことが起きた。

「……お前、こちらが言う前にお手上げか?」

プレストは目を見開いた。
この声。この気配。そして、プレストの後頭部に向けられる、魔力を纏う凶器。
昼間の戦闘で気になっていた存在が、今ここにいる。

(……冗談、じゃねえよな?)

プレストは、冷や汗をかかずにはいられなかった。
いつもの状態ならまだ対応できたのだが、よりによってこの金縛りとは、あまりにもタイミングが悪すぎる。
背後には、銃を構えたスカイルがいた。


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