一体どれくらい経ったのだろうか――重い空気は、トラストの咳払いによって終わりを迎えた。
突然響いた音に、皆はビクッとして再度トラストを見た。
「……次の話に移るとしよう。今後、プレストとともに行動するならば、知っておいた方がいいと思ってな――右目のことじゃ」
「えっと、確か……魔術の練習中に、暴発で大火傷を負ったっていう話のことですか?」
ノルヴァは、両親から聞かされた話を思い出しながら言った。
あの大事件が起きてから数日後のことだった。
プレストは「強くなりたい」という想いで、魔術の基礎から教えてほしい、とトラストに頼み込んだ。それを受けて、トラストは光の下級魔術から指導を始めたのである。
しかし、その最中に魔術が暴発し、プレストは右目及びその周囲に大火傷を負った。それからは常に、黒い包帯のような眼帯で右目を隠し続けているのである。
「……それは、世間一般で知られている話じゃな」
「えっ?」
その言葉に、ノルヴァとキリアは驚いた。自分たちの知っている話が本当は違うのか、と。
ラージアは事情を知っているのか、まったく動じなかった。ガディラも冷静さの方が勝っていたのか、動じる様子はない。
それを一瞥して、トラストは続けた。
「あの時の魔術は、暴発はしておらん。なぜなら、発動は成功しておったからの。じゃが、問題はその後じゃ」
「その後?」
「発動した光の弾が目標に向かい……突然、方向転換したのじゃ。そして、それがあいつの右目に飛び込んでいきおった」
それは、とてもおかしな話だった。
一度発動した魔術が、勝手に標的を変えることなどない。仮に変えられたとしても、それは術者の意思によって行われることなのである。
「そして、それが原因であいつは大火傷ではなく、全身に裂傷を負った」
「……っ!?」
一同は、思わずその言葉に顔をしかめた。その様子を気にしていないのか、トラストは淡々とした口調で付け加える。
「そして、その右目は金色に変わってしまったのじゃ」
「青から金色……?」
キリアが確かめるような口調で呟いた。
「そうじゃ。そこからは凄まじい魔力を感じた。発動当初の魔力とは比べ物にならん程にな。それが裂傷を引き起こしたのじゃろう」
膨大な魔力を放つ又は取り込む際、その者の限界を超えてしまうと肉体は壊れてしまう。最悪の場合、跡形もなく肉体が消滅してしまうことさえある。
しかし、その魔術は下級であり、発動時の魔力量は少なかった。それが、右目に飛び込んだ時には、裂傷を与えるほどの魔力量になっていたとは、通常では考えられない。途中で魔力量を変えられたとしても、それもまたプレストの意思によるのである。
すべてが、ありえないことだらけだ。
「とりあえずわしは、特殊な生地を施したあの眼帯で右目を封印することにした。あの魔力に耐えられるよう補助することで、裂傷を回避するというものじゃ。
まあ今では、就寝の間ぐらいは眼帯を外しても大丈夫らしくてな。ただ、念のためというのと、国民に別の説明をしてしまった以上、昼間はずっと右目を隠し続けておるのじゃよ」
今回は特殊部隊として、任務中はプレストと行動をともにする。そして就寝前には、必ず眼帯を外した姿を見ることになる。だから、説明しておくことにしたのである。
プレストに席を外させたのは、つらい経験を本人の目の前で語るのは良くないと判断したからだろう。彼には、説明したことだけを後で伝えればいい。
「そうだったんですか……でも、世間にもこうやって説明して良かったんじゃないですか?」
「これは、あの事件後の出来事じゃ。バーニス国が何か仕掛けたのではないか、と騒ぎ出し、戦争の気運を再び高めてしまう可能性があった。じゃから、別の説明をすることにしたのじゃよ。それに、この説明では、謎が多すぎてわかりにくいからな」
「なるほど……」
ノルヴァは納得の声を上げた。そして、理由があるとはいえ、今までプレストのことを全然知らなかったと思い、少し恥ずかしくなった。そんなノルヴァを見て、トラストは、気にしなくていい、と首を横に振った。
そして、明日に向けて休息を取るよう、トラストが指示をしようとした時、ラージアが辺りを見回して言った。
「あれ、ガディラさんは?」
その言葉に、一同も辺りを見回した。つい先ほどまでいたはずなのだが――。
いつの間にか、ガディラの姿が消えていた。
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