第三章『交錯』 ( ニ )

昼間の戦闘について、プレストたちからの報告を受けたトラストは、眉間に皺を寄せた。

「なるほどのう……あちらに合成術の使い手がおるとは、少々厄介じゃの」

だが、眉間に皺を寄せたのはスカイルに対してではなかった。トラストはプレストを睨みつける。

「そして逃がしたのか。お前を殺害しようとしている相手を」
「それは……」

プレストは言葉に詰まった。わざと逃がしたことについて見抜かれている。
反逆行為として罰せられるかもしれない――そう身構えたプレストだったが、トラストはため息をついただけで、それは口にしなかった。

「まあ、お前の性格はわかっておるつもりじゃ。そもそも、逃して困るのはお前自身じゃからの。この問題については、お前がケリをつけろ」
「……トラスト様。隊長が関わっている以上、必然的に特殊部隊にも関わる問題ですから、彼だけでなく、我々も協力してケリをつけるべきかと」

ガディラが少し躊躇いながらも、苦笑いを浮かべて口を開いた。
ほとんどプレストとスカイルの一対一だったが、すでに昼間の戦闘で特殊部隊は関わっている。今後もスカイルが襲撃してくる時は、プレスト一個人ではなく、特殊部隊として迎え撃つことになるだろう。手強い相手なのだから、尚更だ。
すると、トラストは笑みを浮かべて、プレストに視線を向けた。

「そうじゃな……とりあえずプレスト、お前はもう部屋に戻ってよろしい。戦いに試験に疲れたじゃろ、明日に向けて休め」
「……へ?」

突然の言葉にプレストはきょとんとしたが、言葉に従ってしぶしぶ席を立った。このまま残っていても、今度は怒鳴られそうな気がしたからだ。
扉が閉まり、足音が遠ざかっていくのを感じながら、トラストは少し目を伏せて口を開いた。

「まったく、人間には甘い、か。まあ、単に甘いというわけではないのじゃが……やはり、あの事件の傷は大きいということかの……」
「あの事件って……もしかして……」

呟いたノルヴァを含め、ある事件が一同の頭に浮かんだ。
それは、スレア国とバーニス国との間で戦争が勃発するのではと、世界が緊張を走らせた大事件である。
トラストは、静かに目を閉じて言った。

「そう、プレストとラージアの両親、アルスとレディーナが殺された事件じゃよ」

その日は、プレストの五歳の誕生日だった。
ラージアをトラストに預け、親子三人で庭に足を運んでいた時、特殊な機械兵が彼らを取り囲むようにして現れたのである。
その機械兵から放たれるレーザーは、当時の魔術では対処できないものだった。それでも、軍事最高司令官だったアルスと、その妻レディーナは対抗しようとした。しかし、機械兵が八体いたこともあり、二人はプレストを庇うようにして――死んだ。
その後、急遽再び最高司令官となったトラストが、スレア国全体で高まっていた戦争の気運をなんとか押さえ込み、粘り強い話し合いを行った。その結果、バーニス国側が折れて賠償金を支払うなどで事態は収集されたのである。戦争を回避できたのは奇跡とされ、トラストは平和に貢献したと世界から賞賛された。
それでも、戦争寸前まで至ったという事実から、この事件は近年の代表国間において史上最悪とまでされている。

「プレストは生き残ったが、あの事件の後はひどかった。感情は枯れ果て、ただ『強くなりたい』とだけ呟くあの姿は、あまりに痛々しかった……」
「……強く、なりたい?」

キリアの呟きに、トラストは頷いた。

「両親を救えなかったと、あいつは今でも思っておる。ただ守られていただけで、結局何もできなかったと……」
「でも、当時まだ五歳でしょう?いくら天才だからといっても、それは――」
「なぜ、プレストは生き残ったのじゃ?」
「えっ?」

ノルヴァの言葉を遮って、トラストは尋ねた。
軍事最高司令官だった父と、「補助系魔術士」だった母を殺害した相手だ。なのに、どうしてプレストは生き残ることができたのだろうか。
しばらくしてから、トラストは言った。

「それは、機械兵がすべて破壊されたからじゃ……プレストによってな」
「……!?」

想定できなかった事実に、皆は動揺を隠せなかった。
当時五歳だったプレストが、たった一人で機械兵八体を倒すことなどできるはずがない。だが、それをやってのけてしまった――両親が殺された後に。

「目撃者の話によると、かつてない巨大な光魔術を放ったそうじゃ。それは両親の遺体、周囲の木々等には影響を与えず、ただ機械兵だけを滅した……とはいえ、とにかく頭が真っ白で、無我夢中で放ったのじゃろう」
「……」
「そしてそのことで、なぜ両親が殺される前に発動できなかったのかと、悔やんでおるようじゃ。まあ、ノルヴァの言うとおり、五歳児がどうにかできる問題ではないのじゃが……。それからというもの、未だに笑顔と泣き顔は見せん。他の感情は出るようになったがな」

沈痛な面持ちで言葉を続けるトラストを、皆はただ見つめていた。
見つめることしかできなかった。


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