第三章『交錯』 ( 一 )

夕焼けが夜に染まっていく中で、プレストたちはライザーズ邸に向かっていた。
卒業試験は、一瞬で終わってしまった。プレストが得意の魔剣術で、あっという間にすべての「魔獣」を倒したのである。まさに圧倒的だった。
こうして、「魔剣術士」資格を得たプレストだが、不機嫌だった。

「まったく、一般人にも公開しやがって……」

合成術の卒業試験は一般公開もされている。そして、プレストを人目見ようと、多くの人が会場に押し寄せてきたのである。
試験終了後には、改めて稀代の天才だと盛大な拍手が送られたのだが、見せ物のような扱いを受けたプレストは気に入らなかった。覚悟はしていたものの、やはり不快感は募るばかりだ。

「それにしても、あの戦いのことは誰にも気づかれなかったな」
「『試験前だから練習してた』っていうのが通じたし。それに、キリアさんが綺麗に元通りにしてくれたもんね」
「ラーちゃんも、機械の欠片お掃除してたから……」

ノルヴァ、ラージア、キリアは談笑していた。ノルヴァとキリアは初対面だが、同い年ということもあってすぐに溶け込めたようだ。

(てか、あいつらも俺と同じ十五歳なんだよな……ラージアは十二だし、ガディラは二十三だけど卒業したてで……実践経験の面から見ても、特殊部隊は若いって言われそうだな)

部隊編制の時は、経験豊富な人材を少なくとも一人投入し、その者を隊長とするのが大半だ。
しかし、今回は実戦経験の少ないメンバーである。とはいえ、スカイルらとの戦闘を見る限り、大問題はなさそうだった。少しの問題なら色々とカバーできるだろう。
大問題は、敵である。合成術の使い手の出現は、予想外であり強力だった。もし、彼以外にも合成術の使い手がいれば厄介だ。
と、ガディラがプレストに話しかけてきた。

「なんか考え事か?さっきまで機嫌悪そうだったけど」

どうやら、表情の変化を見られていたらしい。そして、その言葉で試験の不快感を思い出し、再び眉間に皺を寄せる。そんなプレストの様子を見て、ガディラは苦笑いを浮かべた。
と、その顔を見て、プレストはふとあることを思い出した。

「そういえば、ガディラ」
「ん?」
「俺、副隊長はお前にしようかと思ってるんだけど、どうだ?」

その発言にガディラは目を見開くと、少し困ったような笑みを浮かべた。

「俺でいいのか?ラージアじゃなく」
「……あのな、いくら実力があるとかいっても、あいつはまだ十二歳だぞ。それにお前は、『気』の扱いとか見てても状況判断に優れている。だから、副隊長として適任だと思う」

ガディラは、その言葉を受けて考え込んだ。
もしかしたら、身分のことを気にしているのかもしれない。貴族ばかりの特殊部隊で、ただ一人の平民だ。恐縮するのは無理もないだろう。
しかし、その必要はないとプレストは思う。唯一の平民なら、むしろ誇りに思ってもらっていい。それだけの実力があると認められているのだから。

「わかった、引き受けよう」
「それじゃあ、決まりだな。あ、ちなみに、正式な手続きとかいらねえから。これは、ジジイじゃなくて俺が決める事だし――」

と、ここでライザーズ邸に到着した。
さっそく、プレストたちは大きな部屋へと案内される。会議室だ。
扉を開けると、豪勢な食事と中央には巨大な地図、そしてトラストの姿があった。

「よく来たの。さあ、席に着け。腹も減ったじゃろ」

トラストの声で、プレストたちはそれぞれ指定された席に着く。堅苦しい食事になりそうだ、とプレストは密かに思った。
だが、そう思ったのはプレストだけだったようで、皆は豪華な料理に目を輝かせて話を弾ませていった。それらの料理は国内外で定評のあるシェフが作ったもので、貴族であるノルヴァやキリアも満足しているようだった。
しばらくして、トラストは食事を進めながらでもいいから聞いてほしい、と言った。緊張からか、皆は手を膝の上に置いてトラストを見た。

「うむ。これから任務内容について説明する。目的は先に言ったとおり、バーニス国の現状把握である。しかし、現状把握といっても、バーニス国に直接入るのは危険じゃし、初任務のお前たちには荷が重過ぎる。そこで今回の任務は、『魔術主義』国内での情報収集とする」
「同盟国内での情報収集……ってそれだけですか?」

ノルヴァの意外だ、という発言に対し、トラストは動じることなく言った。

「重要なことじゃぞ?いいか、『光の壁』があるというのに、機械兵の奴らはどうしていとも簡単に侵入できるのじゃ?」
「……秘密のルートみたいなのがあるから?でも、どのルートでも『魔術主義』国内を通る必要があるから……」

キリアの呟きを聞いて、ノルヴァはなるほど、と頷いた。
海で隔てられているスレア国とバーニス国との間に、五十年前、突如として現れた「光の壁」。光系の「ティセ」の集合体であるそれは、どのようにして、どのような理由で現れたのかわからない。そして、あらゆる手段を用いても破ることはできず、その向こう側に行くことは叶わないのである。
そのため、海や空を渡るにしても、侵入するには「魔術主義」国内を通る必要があるのだ。

「機械兵の目撃情報等は各国の機関が管理しておるのじゃが、今回はそれ以外の、現地の民からの情報も得ることが任務じゃ。……これでやることは大体わかったな?では、その進路について説明する。それから、注意すべきところもな」

トラストが中央の巨大な地図を指す。そこには、あらかじめ赤い矢印で道が示されていた。

「ここ、首都サティスレアを出発した後は、北にあるメルシュデンの街を目指すのじゃ。そこに、プレストの師であるリュウト・ヘイデンがおる。そこで海上移動に必要な乗り物を受け取るのじゃ。
そして、その後は海上移動が連続するが、カディン国、ネースト国、ナポルト国を回り、ジヴォルシュ国に渡る。……この周辺は注意すべきじゃ。『機械主義』国内を経由せずに単独行動でいくなら、この辺りを侵入経路にしている可能性がある。
そして、大陸移動でオヴェリク国、ユドランス国へと向かう。そして、再び海上移動でファイリャ国へと渡り……スレア国に戻るのじゃ。このファイリャ国周辺も注意すべきじゃな」

トラストが指し示したところを眺めて、プレストは少し考えながら口を開いた。

「ルシェンカ国がロウェンツ国とともに、ファイリャ国の領土を狙っている。バーニス国はそれを利用して協力関係を結び、この辺りを侵入経路として用いる。そうすれば、ルシェンカ国やロウェンツ国としても、ファイリャ国に侵入しやすくなるし、そういう話なら絶対食いついてくる……そういうことですかね?」
「まあ、バーニス国が鎖国しとるから可能性は低いが、ゼロではないじゃろ。『機械主義』国同士じゃからの」

一気に述べたトラストは、一息つくために紅茶を飲んだ。
注意すべき領域を述べたということは、侵入経路についてある程度絞り込んでおけ、ということだろう。これはこれで途方もないことだが、バーニス国に直接入るよりは随分ましらしい。
と、ここでラージアが手を上げた。

「ところで、危機に瀕しているエヴェスタ国を、他の『機械主義』国が吸収しようとしている……という噂があるんですけど、隣国のジヴォルシュ国から話を伺うべきでしょうか?もし、バーニス国が狙っているなら、少々厄介かなと」
「うーむ、そうじゃな。それも頼むとしようかの」

最大の領土を誇るエヴェスタ国を、バーニス国が狙っているのかどうか。バーニス国の現状把握が任務目的である以上、それを確かめるのもまた特殊部隊の仕事だろう。トラストの言葉に、ラージアは了解、と笑顔で答えた。
すると、プレストが言った。

「……なんか仮に、侵入経路を見つけたとしても、向こうは言い訳してきそうな気がするんですが。ありがちな話ですからね」
「じゃが、見つければ事は大きく動くじゃろう。とにかくこれが初任務じゃ、頑張ってくれ。
……さて、任務に関することはそれくらいにして――」

先ほどまでとは違う真剣な眼差しで、トラストは言った。

「昼間にあったことを聞かせてもらおうか」


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