第ニ章『合成術士』 ( 四 )

森の中は昼間にも関わらず薄暗く、鬱蒼としていた。その中を、プレストはただひたすら奥へ奥へと進んでいく。
仲間は皆、プレストが通った時には姿を見せなかった機械兵と戦っている。やはり、あの少年と一対一で戦うことになりそうだ。

(でもって、あいつはどこだ……)

この森に入ってから、まだ少年は姿を見せていない。プレストは一層警戒を強める。
それにしても、バーニス国の人間と戦うとは予想外だった。そしてそれは、プレストにとって痛いところを突かれたようなものだった。

(人とは戦わなくてもいいと思ってたけどな……避けられない、か)

プレストは思わず舌打ちする。
身分上、戦わざるを得ないとはいえ、彼は人間だけは殺したくないのだ。最高司令官になるのを拒んでいるのも、そういう理由からである。
しかし、そうも言っていられない状況だ。相手が殺意を抱いている以上、手加減をしていてはこちらが殺される。なんとかして追い返すことができればいいが。
と、その時だった。

「な……っ!?」

気配を感じ、上へと跳んだプレストだったが、予想以上の攻撃に驚きを隠せなかった。
攻撃は銃弾のはずだった。だから、ただそれを避ければ済むものだと思っていた。
しかし、銃弾が地面に当たった瞬間、そこから尖った岩がプレストを串刺しにしようと突き上げてきたのである。咄嗟に風の魔術を発動して、より高く跳ぶことでなんとか回避できたものの、下手をすれば命を落としかねない攻撃だった。
さらに、近くの木の枝に着地した途端、それに向かって再び銃弾が放たれた。
今度は、木全体があっという間に氷に覆われた。やがて、銃弾を受けた部分から亀裂が生じ、その木は音を立てながら倒れていった。プレストは予感から、そうなる前に離れたため助かった。
それにしても、銃弾だけでは決して起こらないこの現象は――。

(……まさか、合成術か!?)

そう、今までの攻撃はすべて合成術だったのだ。
バーニス国にとっては憎らしいあの合成術を、少年は攻撃として用いてきたのだ。加えて、スレア国にはない魔銃術を確立していることも、プレストを動揺させた。
その様子を知ってか知らずか、ようやく少年はプレストの目の前に現れた。右手には銃が握られている。
すると、今度は左手で腰にぶら下げている棒状の物を抜いた。そして、そこから紫の光を放つ剣が現れる。それは人工的な光と、魔力を宿っていた。
咄嗟に、プレストは記憶の片隅にあったその名称を引っ張り出す。

(レーザーブレード……しかも、その魔剣術かよ!)

少年はレーザーブレイドを構えると、一気にプレストとの間合いを詰めていく。と同時に、レーザーブレードの刃が黒色に覆われていき、やがて巨大な剣へと変化を遂げた。
魔術単体では、闇属性で主に精神力を奪う付加効果があるが、それに加えて今や肉体をも切り裂く強力な魔剣術となっている。これでは、バリアーでも太刀打ちできないだろう。
それでも、プレストはバリアーを張った。もちろん、防御には期待していない。ただ斬撃を遅らせるだけでいい。
躊躇いもなく、少年が剣を振った。
瞬間、闇の雷が轟音を立てて現れた。それは薄暗い森を照らすように、しかし闇に引きずりこむように周囲の木々をも巻き込む。当然のごとく、バリアーはあっという間に切り裂かれて消えていった。
だが、その間にプレストはスピードを活かしてその場を離れた。そして、木々が最も生い茂っているところに身を潜め、思考をフル回転させる。

(ったく、色々と厄介だ……)

まず、自分と相手の属性が相反していることである。よって、防御は不利な状況だ。
次に、相手の武器が銃とレーザーブレイドであること。特にレーザーブレイドは、剣の性質上まともにやり合うのは危険だ。魔剣ではわからないが、剣そのものが斬られてしまう可能性がある。もしやり合うのなら、合成術をぶつけていけばいいが、長時間の戦闘になれば精神力勝負になるだろう。そんなリスクの大きいことは避けたい。
何よりも、相手が合成術を用いること自体が不利だ。どうやらバーニス国は、合成術には合成術を、という考えで送ってきたらしい。まったくその通りだと言わざるを得ないな、とプレストは思った。
だが、まだ勝機はある。プレストは魔剣を握り締め、静かに集中力を高めていった。
一方、少年は辺りを見回してプレストを探していた。

「……どこに逃げた?」

森に入ってから、初めて少年が口を開いた。
少年は、あの一撃で仕留めることはできないだろう、とは思っていた。何しろ、相手は稀代の天才と言われているほどなのだ。簡単にいくものではない。
ただ、合成術に対する瞬時の判断と行動を見る限り、プレストの実力は予想以上だと思った。
今のところ彼は受身だが、これが攻撃に回るとどうなるのか。ますます油断のできない相手だと、少年は銃を構えて警戒する。
と、その時だった。

「!」

いきなり突風が吹き荒れた。それは、たちまち少年の体を吹き飛ばし、木に激突させる。
だが、少年は痛みなど無視してすぐに銃を構えた。
おそらくプレストは、近くにはいないだろう。わざわざ近くで魔術を使うぐらいなら、威力を考えて魔剣術を使う方がいいからだ。
すると、今度は足元から炎が襲い掛かる。
それを跳んで避けつつ、少年は魔銃術を発動した。たちまち炎は消え、その地面は凍りつく。
だが、上から降り注ぐ雷の槍は避けることができなかった。着地した直後に地面を転がって回避を試みるものの、右腕に槍が直撃し、思わず銃を落としてしまう。
それでも、少年は悲鳴を上げることも、痛みを省みることもなく、再び銃を両手で構えた。

「小賢しいな……魔剣術ではなく、あえて魔術を使うとは」

少年はどこにいても聞こえるような声で言った。そこには憎しみというよりも、ただ殺気だけが宿っていた。
プレストが考えたのは、近距離攻撃を放棄することだった。
少年自身はプレストが見る限り、銃の扱いの方が慣れているようだった。しかし、それでもあのレーザーブレードよりはましだと考えたのだ。そして、そのために近距離攻撃を放棄し、ひたすら魔術に専念するという結論に至ったのである。
と、ここでなぜかプレストは躊躇なく姿を現した。これでは、撃ってくださいと言っているようなものだ。
あのまま隠れていればいいものを、と少年は銃口をプレストに向けた。そして、指先を動かそうとした。
だが、それは叶わなかった。

「……っ!?」

指先に、そして腕全体に力が入らず、少年は銃を落とした。そこで初めて、いつの間にか両腕が麻痺していることに気がついた。
しかし、先ほどの攻撃の中で、麻痺するようなものは雷の槍だけだった。しかも、当たったのは片腕だけなのに、両腕が麻痺している。
プレストは少年に言った。

「さっきの攻撃は連続的に起こったように見えるかもしれねえが、あの突風の後少し間があっただろ?あの時に補助系魔術を放っておいた。ただ、完全に発動したのはあらかた攻撃系を放った後だけど」

少年は不覚だった、と思ったのかもしれないが、そうであっても表情には出さず、ただプレストを睨みつけた。
プレストは離れたまま少年を見た。今はまだ動きを防いでいるものの、いつ動けるようになるのかわからないからだ。少なくとも足は動かせる。
プレストが口を開いた。

「なあ、とりあえず、今回は撤退してくれねえか?」


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