第ニ章『合成術士』 ( 五 )

少年は表情を変えなかった。

「その必要はない。ここで貴様を殺す」

プレストはやれやれ、とため息をついた。
この発言で、バーニス国の目的の一つは、プレストの殺害だと確定した。
もちろん確信はしていたが、相手側がそれを認めた形は今回が初めてなのである。ここは機械と人間との違いか。
その言葉に対し、ただ独り言のようにプレストは言った。

「俺は誰であろうと、人間殺す気ないけどな……」

その途端、少年の表情に大きな変化が現れた。
――驚愕だった。
その様子にプレストも驚いたが、刺客が聞いて驚くのも当然かと思い、続けた。

「バーニスの人間なら知ってんだろ?俺は、あの時の経験を他の人間にもさせたくねえ。ただそれだけだ」
「……甘いな」
「まあな。こんなこと言ってたら、いつか自分が殺される。それに、信念を持って正々堂々と戦っている相手には失礼かもしれねえ。それでも、俺にとっては譲れないことだからな」
「……」

少年は黙った。もう何を言っても無駄だと思ったのか。

「……つーか、こっちの名前知っているくせに、そっちは名乗らないのか?」
「……名乗る必要がどこに?」
「名前なしじゃ呼びにくいんだよ。知られて不利なことでもあるのか?」

プレストはまるで、友人に話しかけるように言った。
なんとか説得して撤退してくれれば、というのもあったが、どこか少年が自分と共通する何かを持っているように感じたからでもある。
少年はしばらく黙っていたが、降参したかのように口を開いた。

「……スカイル・ラスメイト」
「スカイルか……じゃあスカイル、バーニスは俺を殺して何を得ようとしている?話し合いでは解決できないようなことなのか?」

その問いに、スカイルは再び驚愕した。そんなことを聞かれるとは思ってもいなかったようだ。
いや、それだけではない、とプレストは思った。おそらく、そう言われても答えがなかったのだ。バーニス国は王の命令が絶対であって、理由などは聞かされていないのかもしれない。
しばらく沈黙が続いた後、スカイルはキッとプレストを睨みつけた。

「……そんなことは、どうでもいい!」

ここで麻痺が解けたのか、スカイルの腕がふいに動いた。そして瞬時に銃を手に取る。
プレストも再び戦闘態勢に入った。やはり、戦うしかないのか――そんな想いが浮かび上がった。
と、その時だった。

「お兄ちゃん!!」

ラージアの声が響き、同時にスカイルの周囲に雷の魔術が放たれる。スカイルはそれを横に飛んですり抜け、プレストに魔銃術を放った。
プレストは剣を構えたが、その必要はなかった。周囲に強力なバリアーが張られたからだ。キリアの魔術である。
それは魔銃術を受けても破れることはなく、むしろ跳ね返した。
その予想外の攻撃にスカイルはただ避けるしかなく、地面に伏せた。魔銃術はスカイルの頭上を通過していき、その先にあった木を闇の中へと飲み込んでいった。

「はあああっ!!」

そこに、ノルヴァの剣が襲い掛かった。スカイルにレーザーブレイドを構える隙を与えず、振り下ろそうとする。
だがその時、スカイルは銃口をノルヴァに向けていた。

(危な……!)

すると、プレストが動くよりも早く、ガディラの矢がスカイルに向けて放たれる。
スカイルはそれに気づいて銃口をノルヴァから外し、大きく後退する。その矢は「気」を帯びており、地面に当たると轟音を立てて大きな穴を開けた。
ここにきて、ようやくメンバーが勢ぞろいしたのだ。なんともタイミングがいい。
一方のスカイルは木の枝に着地し、舌打ちした。一対一でなくなった以上、状況は不利だった。

「……今日のところは引かせてもらう。プレスト・ライザーズ」
「そうしろ……スカイル・ラスメイト」

すると、スカイルは森の中へと消えていった。
ようやく戦闘が終わった。
今までの刺客の中では最も手強い相手だっただけに、思わずプレストは胸を撫で下ろす。しかし、彼はまた襲ってくるだろう。その時はどう退けようか。

「プレスト、逃がしていいのか?」
「……ああ。何しろ、あいつは初めてのバーニス人だからな。機械と違って、扱い方ミスったら何かともめそうだし」

ノルヴァに適当に返答すると、プレストは合成術専門学校の方へ歩き始めた。皆も後に続いていく。
本当は、捕まえるという選択肢がよかったのかもしれない。
あの動けない時に拘束し、そしてバーニス国の現状を吐かせることができれば、特殊部隊の目的を達成することができたのかもしれない。まして、あのような危険人物を放っておくことは、こちらが危険にさらされることになるのだ。
しかし、プレストにとっては、すぐに除外された選択肢だった。おそらく、バーニス国に関する事を吐くまでは、拷問を受け続けることになる。そう簡単に吐くとは思えないし、長時間の拷問で死んでしまうのかもしれない。いや、その前に自害してしまうのかもしれない。
それは、プレストにとって殺すのと同じことだ。だから、逃がすことにしたのだ。
とりあえず、ここにいても仕方がない。時間はまだあるので試験に問題はないだろうが、明日から出発するのと、その間に襲ってくることも考えて、今すぐにでも休憩を取るべきだろう。
すると、柔らかな光がプレストを包み込んだ。それは心地よく体を癒し、さらには服についた泥なども消していく。光が消える頃には、戦闘前の状態になっていた。

「プッくん、珍しくボロボロだから……回復魔術使った」
「……サンキュ」

呟くようにプレストは礼を言った。聞こえたのか、キリアは微笑みを浮かべた。
特に外傷はなかったが、精神力の消耗の方が激しかった。魔力を思ったよりも使っていたためだ。それに気づいたキリアはさすがというところか、これから試験を受けることを考えるとありがたい。
そう、次は卒業試験なのだ。それはわかっていたが、実感のようなものが沸いてくると、プレストはため息をついた。

(まったく、今日は長い一日になりそうだ……)

それでも、進むしかない。平和な日常が欲しいものだ、とプレストは心の中で嘆いた。


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