第一章『入学日』 ( 三 )

機械兵から、プレストに向かって銃弾が放たれる。
しかし、それを物ともせずにプレストは瞬時にバリアーを張った。銃弾は魔術の壁に弾かれていく。
すると、プレストはすぐにその場から離れ、機械兵の側面に回った。

「『蒼刻の光(ブライズ)』!」

プレストの呼びかけに応えて、右手に剣が現れる。先祖代々からの代物、魔剣である。持ち主の意思によって呼び出したり、収めることができるのだ。
機械兵がアームでなぎ倒そうとするのを避けながら、プレストは隙を窺う。相手は旧式の機械兵の上に、巨体であるため隙ができやすい。
しかし、そこが気がかりだった。

(さっきまでジジイがいたのに襲わなかった。ってことは、俺が狙いだろうけど……殺害目的にしては弱すぎるな……)

プレストは一旦後退して剣に魔力をこめた。すると、それに応えるように、緑色の光が剣に巻きついていく。その周囲には風が吹き荒れていた。
機械兵が銃弾を放つと同時に、プレストはその攻撃の線から外れつつ突進する。機械兵が次の攻撃を加えようとした時だった。

「風刃!!」

プレストが剣を振るった。
すると、緑色の光がまばゆく輝き、無数の風が放たれた。それは、機械兵を斬りつけながら駆け抜けていき、その体をバラバラにしていく。
それを確認することもなく、プレストは剣を突き立ててバリアーを張った。それは、機械兵の残骸の周囲に生じる。
瞬間、爆発が起きた。
それは轟音とともにバリアーを振動させ、その中を煙が覆っていく。
それからしばらくして静まり返った後には、金属の欠片が僅かに残っているだけだった。

「やっぱ、メモリーを残そうにも無理があるか……」

プレストはバリアーをそのまま収縮させ、僅かに残った金属片を集める。そしてバリアーを解除し、ポケットから出した小さな袋に移した後、ベランダに出てラージアを呼んだ。
杖にまたがったラージアは、心配そうに兄の顔を覗きこんだが、無事であることを確認するとすぐに笑顔を見せた。
プレストは、袋をラージアに渡した。

「これをリュウトさんの関係者に……場所はわかるな?」
「オッケー」

ラージアはすぐに方向転換すると、その場から去っていった。
一方のプレストは、荒れてしまった部屋を見てため息をついた。後で片づけをさせられそうだ、と。戦闘よりも祖父の方が、彼にとってはきついらしい。
ちなみに、先程のプレストの攻撃が、魔剣術――剣術と魔術の合成術である。
精神力の凝縮によって生まれる「気」。武術専門学校では必須科目であるが、これを用いて魔法陣を描けば、瞬時に魔術を発動することができる。ただ、「気」を生み出す精神力、魔力の精神力、そして「気」を用いて描くための意思が必要なので、この過程だけでも難しい。
それを応用したのが、合成術である。武器に直接、「気」で魔法陣を描き、そこに魔力を注いで発動させるのだ。それと同時に武術を用いることで、この術は発動する。あらかじめ魔法陣を描いている時に比べて、状況に合った術が使えるというメリットがあるが、難易度はさらに上がる。
それにしても、プレストは合成術専門学校に入学したばかりだというのに、すでに使いこなせているというのは、疑問に思うのかもしれない。
実は、彼はすでに五年ほど前から魔剣術が使えるようになっていたのである。三歳の頃から上級魔術を使えていたことからも、すでに常人ではない。これが、プレストが稀代の天才と呼ばれる理由である。

「派手にやったのう」

と、ここで祖父トラストが戻ってきた。あっさりと口を開くだけで、まったく動じない。プレストは眉間に皺を寄せ、問いかける。

「もしかして、機械兵がいたことには気づいていた、とか?」
「もちろんじゃ。わしがわからんとでも?だいたいあんなデカ物、どんな技術を使っても完全に隠れるのは不可能じゃろう」
「……」
「何じゃ、不満か?じゃが、お前一人の状況でなければ、奴は出てこなかったじゃろ。それに、奴との戦闘でお前が負傷するとも思えんかったから、任せたのじゃ」

プレストは祖父を睨みつけ、面倒事を押し付けたかったに違いない、と思いつつも、祖父の言葉の意味を考える。あの機械兵がプレストを狙っていたのは確かだということだ。
トラストは荒れた部屋を気にせず、身近にあったソファーに座った。その向かいにプレストも座る。座り心地は良くない。
トラストは手に持っていた資料をプレストに渡す。

「先程からもわかるように、ここ数年、バーニス国の機械兵が頻繁に見られるようになった。それまでは貴族たちが見かける程度じゃったが、他の身分の者も見かける程までに、全国的に広がっておる」
「まあ、さっきのは次期最高司令官の実力だめし……といったところでしょうが、そのようなことではないと?」
「まだ確信はできんのじゃが、わしの考えでは、『敵対国バーニスが戦争をしたいがために挑発している』といったところかの」

その言葉にプレストは疑いの目を向けるしかなかった。
ここスレア国とバーニス国との対立は深刻であり、それは誰もが知っている。
「魔術主義」と「機械主義」という、社会の仕組みの違いによって世界が二分されている中、それぞれの代表国であることが対立をさらに深めているのだ。
スレア国側は、「機械は資源不足や環境破壊を招く。また戦力としては自然の力を利用した魔術に弱い」などと批判し、バーニス国側は、「魔術は精神力の使いすぎによる過労死が目立つ。戦場では命を落とす危険も高い」などと批判し続け、それが二百年ほど続いているのだ。
そして、近年にも暗殺等によって戦争に発展するような状況はいくつかあった。ただ、戦争で決着をつけても、その被害の方が後々大きくなるだろうと考えているため、代表国間における戦争はここ五十年間起きていない。しかし、先程の言葉はそれを覆すことになる。

「戦争を起こしてまで、何か達成したいことがあるということですか?」
「うむ。そして、場合によってはその『何か』が、多大な被害をもたらす恐れがある。そこでじゃ……バーニス国の現状把握のため、最高司令官直属の少人数による特殊部隊を編制することが決まった」

トラストは一枚の紙を机に叩きつけた。

「その隊長に、プレスト・ライザーズを任命する」


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