「は……?」
プレストは思わず口を開いた。そして、そのまま固まる。
トラストは、言い聞かせるようにもう一度言った。
「じゃから、お前を特殊部隊隊長に任命すると言ったのじゃ」
「いや、だから……そんないきなり言われても困るんですが」
「仕方ないじゃろう。朝お前が行く前に、言うのを忘れてしまったからの」
プレストは呆れた。
(何だ?さっきといい、イジメか……?そもそも、朝に言ってくれりゃあ、呼び出す必要なかったんじゃね……)
そこで、彼はあることに気がついた。
入学式の最中に、わざわざ呼び出す必要があったのだろうか。
そもそも、特殊部隊の編制に関して、国民には大抵内密のはずだ。今回のように呼び出すことは目立つため、あまり好ましくないはずである。となれば、わざと目立たせて何かを得るのが目的か。あるいは、そうしてまで早く知らせなければならない理由があるのか。
この疑問に不安がよぎった。
「……なぜ、俺が隊長なんですか?」
「うむ。任務については内密でな。編制理由に関してお前の場合、『次期最高司令官として――』とまあ、適当に説明することができるじゃろ。それで、お前が隊長をすべきだと議会で決定したのじゃ。実際、最高司令官になる前に経験しておいた方がいい、という意見が多数でな」
「つまり、推薦はともかく、それを決めたのは他の司令官ですね。……って、最高司令官を務める意思がないことを、まだ伝えていないのですか?」
それを聞いたトラストは、ソファーから立ち上がって壁に飾られた写真を見、プレストに背を向けた。
「プレスト、今はまだ意思を表明する時期ではない。そして、その時が来るまでの間、皆お前が最高司令官になると思っておる。お前の意思関係なしにな。……そこは理解してくれ」
「……まあ、それはいいとして、それより――」
プレストは一息ついてから立ち上がり、口を開いた。
「国外に出るのなら、まず在籍している学校を卒業する必要がある。つまり、卒業試験を合格して資格を取得する必要があるんですよね」
「そうじゃ」
「俺は入学式を経て今日、合成術専門学校生になりました」
「うむ」
「てことは近々、卒業試験を受けなければならないということですか?もしそうなら、こうまでして呼び出す理由もわかりますが」
「ああ、それについてじゃが、今日には資格を取ってもらわんと困るな」
一瞬空気が凍りついた。そして、
「はああああっ!?」
と、プレストは外にまで響き渡るような声を上げた。
無理もない。今日入学式に出席したばかりだというのに、すぐに卒業しなければならないのだ。驚くのは当然だろう。
一方のトラストは落ち着いた様子で、少し眉間に皺を寄せた。
「当たり前じゃ。バーニス国側の動きは数年前からあるのじゃぞ。早く動いてもらわなければ困る。よって、これから試験を受け、明日の昼には出発してもらう予定じゃ」
「無理です!だいたい、受付時間があと十分しかない!」
ここから学校まで、どれだけ頑張っても一時間はかかる。だが、試験受付は時計の針が十分後を示せば終了なのだ。明らかに間に合わない。
その言葉を聞いたトラストは、小さな紙をプレストに渡した。
「ほれ、最高司令官直々のサインじゃ。これさえあれば大丈夫じゃろ」
どうやらこうなることを想定していたらしい。その紙には「本日中に試験を受けさせること」という一文と、トラストのサインが書いてあった。
すると突然、彼はプレストの背中を押してベランダの方へと向かわせた。プレストは何がなんだかわからなかったが、なんとなく不安はよぎった。
案の定、トラストが魔術を発動させた。
「それじゃ、行ってこい」
「あ、っておい!何すんだコラーーっ!!」
突風でプレストの体はベランダを離れ、そのまま地面に向かって落ちていった。プレストはすぐに魔術を発動して、地面に直撃する前に浮力を生じさせて衝撃を回避する。
それにしても、孫を突き落とすのも教育の範囲で収められるのだろうか、とプレストは思った。そして、今すぐにでも戻って祖父を殴ってやりたい気持ちになったが、そこは抑えて合成術専門学校の方へと走り出す。いくらサインがあるとはいえ、急ぐべきだろう。
(ちくしょう……クソジジイーー!!)
走りながらプレストは、祖父への怒りを心の中で爆発させる。
そんな様子を眺める人物がいることも気づかずに――。
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