「はあ……なんとか了承してくれたな」
卒業試験の受領書を片手に、プレストは呟いた。
数十分前、走り続けてようやく試験受付窓口に辿り着いた。受付担当者はその様子と、入学式後に卒業試験を受けることに驚いていたが、祖父のサインを見せるとすぐに手続きを行った。試験は準備時間も必要なので、今から三時間後に行われることになったのである。
試験内容は、「魔獣」三体との戦闘だ。
「魔獣」とは、世界の裏側にあるとされる魔界から召喚術によって呼び出されたもので、近年では試験に限らず実験動物として扱われている。そのことで一部の人々から非難を浴びているものの、特にスレア国では、魔術と類似していることから研究が進められている。召喚術は今最も注目されている分野なのだ。
プレストは、一部の人々と同様、あまり好ましくないと考えている。彼らの意思を無視して、こちら側の都合を押し付けるのはあまりに勝手ではないか、と。
今回試験では倒さなければならないが、それならばせめて――。
(なるべく早く終わらせてやらねえとな……)
心の中で呟きながら、プレストは受付前の椅子から立ちあがり、玄関へと足を運んだ。
しかし、試験までの時間について何も考えていなかったため、玄関を出たところで立ち止まる。
三時間を、どうするか。
腕組をしてあれやこれやと考えた末に、ここで立ち止まっていても仕方ないので、プレストはとりあえず暇つぶしに学校の裏手にある森の近くまで向かった。
ぼーっとするのも良し、準備運動をするのも良し、術の練習や確認をするのも良し。そのようにして、そこに着いてから色々考えればいい。そう思ったからだ。
が、実際着いた途端、その考えは吹き飛んでしまった。
プレストは目を見開いた。
「お前ら……どうしてここに」
目の前にいたのは、男女四人。その内、プレストと面識がある者は三人いる。
一番手前にいたのは、ラージアだ。目的を果たした後、すぐにやってきたのだろう。
そして、その後ろにいたのは、深緑色の瞳を持ち、赤髪を肩のあたりまで伸ばし、「補助系魔術士」を示す帽子を被った少女、キリア・エージェルである。彼女は「補助系魔術士」の貴族に生まれ、プレストとはこの間までともに魔術専門学校生だった。
彼女は、おずおずといった様子で口を開く。
「プッくん、『合成術士』の試験受けるんだね。すごいね」
「だから、プッくんって言うな……そういうお前は、『補助系魔術士』資格を取得ってとこか。最初からそれ取りゃよかったのに」
「でも、攻撃系やってみたかったから……」
「それで俺に毎回ぶつけるってか?……やめとけ」
彼女はプレストが魔術専門学校に入学する時に、補助系魔術から攻撃系魔術に変更したのである。補助系では申し分のない実力を持つ彼女だが、攻撃系になると、なぜかいつもプレストに向かって魔術が発動してしまうのである。しかも、プレストの魔術専門学校での卒業試験でも発動し、妨害したこともあるのだ。プレストが彼女を苦手とする、理由の一つでもある。
「にしても、いきなり試験ってホント大変だな」
「お前はちゃんと『剣術士』資格取れたのか?」
「ん、ま、まあ、ちゃんと取れたよ」
「何で動揺するんだよ……」
青の瞳を持ち、左目を覆う金髪を肩まで伸ばした少年、ノルヴァ・リナレスは苦笑いを浮かべた。
彼は元々「魔術士」の家系であるが、両親の意向によって武術専門学校に入ることになった。プレストとともに六歳で入学した彼は、よくプレストに頼っていた。その中で、自信のなさや優柔不断な面を見せることが多く、そこが苦手だとプレストは思っている。
そんな二人だが、プレストにとって親友であることに変わりはなかった。
貴族の頂点であるライザーズ家であることや、稀代の天才と呼ばれていることから、大抵の人々はプレストを敬遠しがちだった。
だが、この二人はそのような面で敬遠することなく接してきた。「プレストは天才だ」という意識を持って頼ってくることについてはともかく、それだけでもありがたかった。
「……で、そちらは?」
プレストが目を向けたのは、一番奥にいる人物だ。
短い茶髪に白い鉢巻きをまいた、二十代前半くらいの男性である。大柄で筋肉質な体格は格闘家を連想させるが、弓を背負っていることから違うようだ。彼とは面識がなく、なぜこのようなメンバーの中にいるのかわからなかった。
「おっと失礼。初めまして、『弓術士』資格所持のガディラ・ダフォードと申します。お目にかかれて光栄です、プレスト・ライザーズ様」
ガディラのきっちりとした挨拶に、プレストは思わず固まった。
プレストは、特別扱いは好きじゃない。ライザーズ家である以上は慣れているつもりだが、今回は幼馴染みの中での挨拶だったため、余計浮いているように感じたのである。
「あ、いや……普通でいいから、さ。見た目からしてあんたの方が年上だし、年下の俺はすでに敬語とか使ってないし、なんか変だ」
「そうですか。いやー平民身分なもので……それじゃあ、えーこれからよろしくってことで!」
ガディラの勢いで、なんとなく握手を交わしたプレストだが、疑問が浮かんだ。
「……『これからよろしく』って?」
「お兄ちゃん、おじい様から聞いてないの?」
ラージアが口を開いた。そして、その言葉にプレストはハッとした。
四人を見る。なぜ、この四人が試験前に集まっているのか。
今思い浮かぶ考えでいけば、おそらく――。
「まさか……お前らが?」
「うん。特殊部隊隊員、全員集合だよ」
ラージアはにっこりと笑った。
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