ここは合成術専門学校。森に囲まれたこの場所は、スレア国の首都サティスレア郊外にある。
合成術とは簡単に言えば、魔術と武術を組み合わせたものである。発動方法等については、ここでは省いておく。
この国では満六歳となる年に、魔術か武術、どちらかの専門学校に入学し、卒業試験合格によって資格を得ることが義務である。
だが、合成術専門学校においては、双方の卒業証書がなければ入学することができないのだ。この学校が義務になっていないことからも、合成術を扱うのは難しいということである。
それでも、「合成術士」を目指す人は多い。なぜかといえば、「憧れているから」というのが大半である。軍事を担っている貴族の中でも、上級クラスはほぼ「合成術士」なのだ。豪族は地方の政治を、王族は国・首都の政治を担っているが、平民も含めて軍事を担わない彼らでさえ、この学校を目指しているのである。
「はあ……」
と、入学式の緊張の中、ため息をつく一人の少年がいた。青い長髪を三つ編みで束ね、黒い包帯のようなもので右目を隠しているのが特徴的である。
周囲の視線は、話をしている学校長よりも彼に向けられていた。しかし、この状況は単に彼の容姿によるものではない。
プレスト・ライザーズ。次期軍事最高司令官だとされている人物である。彼は、軍事最高司令官を担っている貴族の生まれ、というだけでなく、稀代の天才と称される程の実力まで持ち合わせているのだ。
そんな人物を目の前にして、人々は興奮していた。これこそが、プレストのため息の原因なのだが。
(くそっ、まだ終わんねえのかよ。もう一時間は経つぞ……)
実は、式が始まってからずっと学校長の話が続いていた。他の担当者が説明するところまで話しているようだが、あまりにも退屈である。それに加えて、周囲からの視線はプレストにとって窮屈なものだった。
と、そんな状況を破るものが突如として現れた。
「お兄ちゃ〜ん」
「……ラージア!?」
プレストは青の瞳を空へと向ける。人々も一斉に空を見た。
空に現れたのは、ほうき型の杖にまたがって飛んでいる少女だ。プレストの妹、ラージア・ライザーズである。
頭の上部に二つ結んだ紫の髪と、それと同色の瞳を持つ彼女の顔つきは、まだ幼い。それでも彼女は、八歳時に「攻撃系魔術士」資格を得たという最年少記録を持っているのだ。資格を得て数年経った今でも、その記録は破られていない。
「あっ、いたいた!にしても、相変わらずすごい人だね」
「何だよ、式を中断させてまで」
そう言うプレストだが、満更でもない様子である。それは他の皆も同じだった――学校長以外は。
ラージアは兄の元へ少し降下する。人がいるので地上に降りるのは難しい。
「お祖父様が呼んでたよ。早く行かないと」
「はあっ!?なんで急に――」
「また魔術が飛ぶよ?」
その言葉で、プレストは眉間にしわを寄せた。彼は祖父が嫌いなのだ。
舌打ちすると、嫌悪の表情のままラージアの杖を握り、跳んだ。そして、宙で少し回転すると妹の後ろに座る。またがず、杖に腰掛けたような状態だ。
「ま〜た、そんな座り方して〜。落ちても知らないからね」
「んなもん、どうでもいいから早く行けって!」
不機嫌な兄に苦笑いを浮かべて、ラージアは杖に魔力を込めた。
魔力は自然の力「ティセ」と精神力の融合で成り立つ。そして、魔法陣や呪文を用いることで魔術を発動することができるのだ。この場合は、杖の中に特殊な魔法陣が描かれているので、魔力に反応して浮力を生じる魔術が発動する。ただ、この欠点といえば、飛んでいる間は常に魔力を消費し続けることだが、ラージアには問題ないことだ。
上昇を続ける中で、プレストは下に向かって言った。
「御迷惑をお掛けして申し訳ありません!式を続行してください!!」
とりあえず、といった感じで謝罪を述べたプレストは、その後すぐに進行方向へと顔を向ける。なぜ呼び出されたのか、ということ以外はこの時頭になかった。というのも、何か嫌な予感がしてならないからである。
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